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2006年12月18日 (月)

渾身号泣夏木マリ@男はつらいよ

寅43作「寅次郎の休日」は、それまでの作品にはない人情心理ドラマだと思う。Photo_408
物語の縦糸は前作を受けて寅の甥っ子満男と泉(ゴクミ)の青春恋愛だけれど、横糸が新機軸である。

泉の母親(夏木マリ)は夫(寺尾聰)と別居して(離婚未済)名古屋でクラブのママをやっている(スポンサーがいそうなものだと俺は邪推してしまうけど、やましい関係は持ったことがないと夏木マリは寅に明かす)。
泉は父恋しさ及び母との復縁を願って愛人(宮崎美子)の故郷大分県日田まで父を追って行く(満男も止むに止まれず新幹線に飛び乗り同行する)。ここでようやく寺尾聰登場(いったいどんなクソエロオヤジだと観客に散々気を揉ませた後に気弱そうな父親が出てくるという筋書き)。
宮崎美子が健気に薬屋をやっている一方で寺尾聰は製材所での慣れない仕事に従事しているという二人を見て、泉は何も言えなくなってしまい二人に暇を告げる。父親は断固引き止めるべし、なんで後を追わないんやアホんだら。
と思ったらそこにばったり夏木マリとサポーター寅登場(こういう筋書きだから父親は追いかけられないんよね、ドラマ構成上)。

その夜四人は旅館で一泊。悲しい宴に興じた後に母娘二人になっても母は酒を止められない。さんざん酔った果てにようやく母は娘に夫の様子を訊く。ここでセリフ起こしをやってみよう。
母「どうしてた。女の人と一緒だった?」
娘「一緒だった」
母「パパと別れて頂戴って言ったの、その女に」
娘「言わなかった」
母「だってそれ言うために来たんでしょぉ。言わなかったの」
娘「言えなかったの」
母「なぜ」
娘「パパ、幸せそうだったから。……だからもう、パパのことはあきらめよう、ねえママ。あたしと一緒に暮らそぉ」

ここで夏木マリが渾身の演技である。すっていたタバコを投げやってテーブルの上のコップをひっくり返して号泣する。手を口に当てて抑えて突っ伏して泣く。

どんな事情が夫婦の間にあったかは映画は語らない。観客の想像に任されている。しかしながら、夏木マリの心情はは観客に届く。悔しさ、切なさ、悲しみ、そしてほんのちょっぴりの安堵(今でも夫を愛しているのだから幸せだと聞いて安堵の気持ちが起きない筈はない)。
寅もよく耐えた。隣の部屋で母娘の会話を一緒に聞いていた満男に「なんとかしろよ伯父さん」と言われてもよく辛抱した。

人にはそれぞれの悲しみがある。胸の奥底に悲哀がある。それを他人は安易に慰撫してはいけない。寅もようやくその程度のことは理解できるようになったのである。

 わが心深き底あり喜も憂も波もとどかじと思ふ    西田幾多郎

※写真は夏木マリ。放蕩娘の縞々ストッキング  β◆着物から勝手拝借/感謝です。

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コメント

あー、やられてしまいました。そうなんです、この夏木マリのシーン、セリフ起こししようと思っていたんです。
いやー、私、今回失敗してしまいました。
この部分、引用させてもらって良いですか?

投稿: ようちゃん | 2006年12月18日 (月) 午前 09時20分

どうぞどうぞ。「人間万事、めぐり合わせよ」と寅が言いそうに思うのだけれどあんまり洒落になってませんね。反省。

投稿: 土曜日の各駅停車 | 2006年12月18日 (月) 午前 09時44分

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