満男物語@満男は逃げたのだろうか
寅46作は「寅次郎の縁談」。就職活動(シュウカツというんだ。つい最近知った)に悩んだ 満男は家出してしまう。瀬戸内の琴島(現実の地名は志々島)にたどりついた満男は農漁業の手伝いをして心を回復しつつあり、島の診療所の看護師(城山美佳子)にも慕いを寄せられる。そこへさくら夫婦に頼まれて寅が呼び戻しに来るのだが、満男が身を寄せた家には松坂慶子がいたのだった。
93年の作品だからバブル崩壊後の就職氷河期である。満男が履歴書・面接で「サークルのサブリーダーとして活躍…」などという嘘をつくのにくたびれ果てるという設定は現実味がある。物語の最後には父親ひろしも「嘘なんかつかなくていい」とようやく理解してくれるのだが。
それはともかくとして問題は、満男が看護師(城山美佳子)や松坂慶子に何の事前相談もなくて松坂慶子宛一片の置手紙だけで東京に帰ってしまうことである。
この点、満男の心境にどんな変化があったかを映画は一切、描かない。しかしまあ、普通に考えても大学卒業も就職もしないといけないから東京にいずれ戻るべきなのだろう。
でも、親切に居候させてくれた松坂慶子には事前相談するべきとも思える。こころよく了解してくれるはずなのだから。それが満男の果たすべき説明責任である。
一方、看護師(城山美佳子)に対してはどうか。彼女の気持ちがわかっているだけに説明責任を果たすのは難しそうだ。相手が納得してくれて初めて説明責任を果たしたことになるからだ。
いや、松坂慶子は看護師(城山美佳子)のことを知っているだろうから、松坂慶子も引き止めるかなあ。だとすると、置手紙だけで逃亡するのも止むを得ないのかもしれない。
いずれにせよ、満男は東京に戻った。逃げの名人寅も満男が不用意に寅の気持ちを松坂慶子に言ってしまったこと(葉子 「そういうことはね、本人の口から、直に聞きたいの!あんたみたいな、寅さんの良さがちっとも分かっとらん様な青二才から聞いても、ちっとも嬉しゅうない。余計なお節介よ!」)をきっかけに満男と一緒に島を出る。寅の場合、説明責任を求めることは酷なのは当然だ。
俺は説明責任を果たしたか。そんなことを考えるのも俺に酷だから止めておこう。人には厳しく自分には甘くが身上なのだから。
※写真が瀬戸内の琴島(現実の地名は志々島)。香川の名所案内3から勝手拝借/感謝です。「かっては千人近かった島民が、今では全人口30余人 平均年齢80歳の過疎の島」だそうである。
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